ちょっと役立つ印刷・デザイン用語のマメ知識(6)~五感を刺激するシズル感~

このコーナーでは、普段何気なく使っている印刷やデザインに関する専門用語をピックアップして解説します。
「あ、この唐揚げ、絶対おいしいやつだ…」
チラシやポスターを見て、思わずゴクリと唾を呑み込んでしまった経験はありませんか?
お肉から溢れ出す肉汁、冷えたビールのジョッキに滴る水滴、切りたてのトマトのみずみずしい断面。
デザインや広告の世界では、こうした「食欲や五感を刺激する、美味しそうな臨場感」のことを「シズル感」と呼びます。
お料理や食品の画像を使った販促物を制作する過程においては、「もっとシズル感を出して…」といった言葉を頻繁に聞くわけですが、今回はその「シズル感」を紐解いていきましょう。
ステーキを売るな、シズルを売れ!
「シズル」という言葉、響きからしてなんだか湿り気があって日本語っぽい言葉に聞こえませんか?
でも実はこれ、英語が語源なんです。
英語の「Sizzle(シズル)」 は、お肉がジュージュー焼ける音や、揚げ物がパチパチと揚がる音を表す擬音語です。
この言葉をビジネスの世界で一躍有名にしたのが、1930年代にアメリカで活躍した伝説の経営アドバイザー、エルマー・ホイラー氏。彼はこんな格言を残しました。
「ステーキを売るな、シズル(焼ける音)を売れ!」
これはマーケティングの歴史に残る名言です。
お客様が本当にお金を払いたいのは「ステーキという肉の塊(物質)」ではなく、「ジュージューという音、鼻をくすぐる香り、口に入れた瞬間の幸福感(体験)」なのだ、と彼は説いたのです。
この考え方が日本に伝わった際、音だけでなく「みずみずしさ」「鮮度」「質感」といった視覚的な魅力も含めて、広く「シズル感」と表現されるようになりました。
シズル感は「演出」と「印刷」の共同作業
さて、私たちデザインや印刷に関わる人間にとって、このシズル感は腕の見せ所でもあります。
実は、広告で見かける完璧なシズル感の多くは、緻密な計算と職人技から生まれているのです。
例えば、冷たい飲み物のポスター。
撮影の現場では本物の氷ではなく、作り物の氷を使ったり、結露をキープするための霧吹きなどが使われます。
逆に、アツアツの唐揚げの湯気なら加湿器を使うなど、美味しそうに見える工夫と演出が様々に加えられているのです。
そして、その最高の一瞬を紙の上で再現するのが印刷の役割です。
画像自体に細やかな補正を加えることはもちろんですが、場合によっては光沢感を高めるニス加工や、通常よりも彩度の高い特殊なインキを用いることもあります。
どんなに素晴らしい写真も、印刷がぼんやりしているとシズル感は死んでしまいます。
シズル感とは、カメラマン、デザイナー、そして印刷オペレーターという「美味しさの伝道師」たちがバトンを繋いで作り上げる芸術作品と言えるかもしれません。
おわりに
「シズル感」は今や食べ物だけにとどまりません。
口紅のしっとりした質感や、新車の光り輝くボディなど、ツヤ感を大切にする商品の表現にも使われます。
もしあなたが次に街中で五感を刺激するような看板を見かけたら、ぜひ心の中で呟いてみてください。
「うーん、いいシズル感だ!」と。
その瞬間、あなたはもう立派な業界人の仲間入りです。
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この記事の執筆者
株式会社グラフィックソリューションズ 営業企画担当 佐野
様々な業種の企業・学校の広告、広報メディアの企画・制作、ディレクションに携わる。見る人の心に響き、行動を促す「伝わるコンテンツ」の設計を追求。本ブログでは、長年のエディター兼ライターの経験を活かし、多角的視点からメディア活用法や制作の舞台裏を発信している。